神栖地域医療教育ステーション

神栖済生会病院

茨城県神栖市知手中央7丁目2-45

地域診断や異業種体験を通じて健康の社会的決定要因を学ぶ

神栖済生会病院がある神栖市は、都市部、工業地帯、農業・漁業の拠点と3つのエリアに大きく分かれています。各地域はそれぞれに住民層の特徴があり、高齢者に対するケアだけではなく、中高年労働者の健康維持・労務災害、小児医療の需要の多さなど幅広い医療需要があります。それに対して、全国で下位を争う医師不足地域であり、少ない医師で、幅広い医療を担う必要性があります。この状況下では、医師ないし医療スタッフだけの力で、この地域の健康を守ることは困難です。住民の方と一緒に健康を守り、年齢を重ね、病気を持つようになっても安心して生活できる基盤である地域包括ケアシステムを作り上げる必要性があります。
神栖済生会病院・総合診療科は、病棟診療・外来診療だけではなく、救急医療、在宅医療、ヘルスプロモーションにも取り組み、地域との関りから予防・診断・治療・リハビリ、在宅復帰まで一貫した医療を提供できるよう日々活動しています。
ヘルスプロモーションの側面において特筆すべきは「病院コミュニティナース」の活動です。病院職員が、地域住民の生活・健康面の「お節介焼き」をする「コミュニティナース」になるべく活動を始めています。

医学生の実習

クリニカルクラークシップの一つとして、医学群5年生が3-4名単位で1週間神栖市内に泊まり込み、地域を知る様々な実習を行います。病院外来、訪問看護・リハビリ、地域診療所、健康教育、乳幼児健診、住民体験実習と様々なシーンで実習を行います。詳しくは特設ページをご覧ください。

スケジュールの一例

午前

移動

午後

地域連携室(MSW)実習

午前

地域視診

午後

地域診断

午前

異業種帯同実習

午後

調剤薬局実習

午前

診療所実習

午後

訪問看護

午前

移動

午後

振り返り(大学)

各実習内容の説明

地域診断

2013年度より、神栖地域を幅広い視点でとらえ、それがどのように医療の問題をかかわりあっているかを理解することを深めることを実習の目的とし、フィールドワークを行う地域診断実習を開始した。2018年度からは、初日のオリエンテーションでライフスタイルや環境、保健医療の違いなどを決定している政治的、社会的、経済的状況から健康格差を生み出す要因である「健康の社会的決定要因」を学び、地域の街並みや地域住民の意識について地域という広い視野で医療の問題を捉える視点を醸成している。

産業保健

産業医、産業保健師、産業看護師に同行し、産業保健の現場経験を通じて、 企業社員のヘルスプロモーションに関する理解を深めている。
住民体験・異業種帯同実習:医学生は地元産業などに関わる方の協力を得て、仕事の見学や手伝いをさせていただき、従業員やお客さん、相談者との交流を通して、人々の健康に関わる事柄を住民の視点を知る。医学生が、様々な職業を知ることや多様な価値観に触れ、住民のおもいに向き合うことで医療者以外の視点を知ることが実習の目的となる。

診療所実習

実習に協力してくださっている鹿嶋ハートクリニック、城之内医院に医学生が訪問している。各診療所では、プライマリ・ケアの原則である包括性・近接性・協調性・継続性・責任性を学ぶことを実習の目的としている。各診療所の外来診療をはじめ、診療所のコンテキストに応じて、緊急心臓カテーテル検査、漢方診療、訪問診療など幅広い内容を学び、院長先生をはじめ他の職種のスタッフと交流しながら、診療所で行う医療の意義について考察する機会となっている。

訪問看護

訪問看護実習は、訪問看護業務を見学し、在宅ケアにおける看護師の役割を理解し、必要な知識技術、態度について学ぶことを実習の目的としている。

調剤薬局実習

調剤薬局実習は神栖済生会病院の周囲に位置する三つの調剤薬局の業務を見学し、地域における調剤薬局や薬剤師の役割を理解し、適切な処方箋の記載の仕方、医薬連携などを学ぶことを実習の目的としている。

グループ発表・実習の振り返り

1週間の最終日には大学教員あるいは指導医とともに経験の振り返りを行っている。学生一人一人が、神栖の地域で感じたこと、学んだことを共有し、患者個人の問題が社会とつながっているという社会学的想像力が養われている。

学生の感想

  • 茨城県が医師不足であり、医療過疎の地域がたくさんあるということは知っていたが、つくばに住んでいると周りに大学病院も含めた大きな病院がいくつもあり、実際には茨城県の医師不足問題を実感したことはなかった。しかし、今回の神栖市の5日間地域に泊まり込んで実習することで、住民がどのような医療問題に直面しているか、ということを深く考えさせられた。
  • かつて非行に走っていた人々が親となり、その子が親と同様に非行に走ることなく、社会人として成功するという話から、健康の社会的決定要因という観点から親世代の非行は恵まれない幼少期や貧困、社会的支援の少なさなどがあったのではないかと想像されます。しかし、その親世代が鹿島臨海協業地帯の開発に伴い、裕福になったことが新たにタバコや食生活の問題につながってきたのだと感じました。
  • 神栖は工業地帯であり、労働者が多く、子供の数も多いという特性から、健康に対する啓発活動を積極的に行うなど、地域の特性に合わせて活動していくことは大変重要だと思いました。病気は単に病気を治すだけのものではなく、様々な要因が複雑に絡み合って成り立っているものだと知りました。

指導医からひとこと

健康問題を抱えて病院に来られる患者さんは、この地域の住民です。住民の方が地域でどのような思いを持って生活をしているかを学生のうちに直接肌で感じて、見聞きする体験は、これから医師を目指す皆さんにとって生涯忘れることができない貴重な体験になると思います。どのような医師になってほしい、来てほしいという住民の皆さんの思いを肌で感じ取ってください。また、実習中は健康の社会的決定要因(SDH)についても否が応でも意識させられる場面が多くあるかもしれません。住民の皆さんの思いやSDHを意識できるようになって頂ければと思います。

指導医 濵田修平